乗客百六人の犠牲者を出した兵庫県尼崎市のJR脱線事故で、JR西日本は遺族への補償のうち慰謝料について、算定基準となる交通死亡事故より少なくとも一律一千万円を上積みする方針を固めた。安全であるべき鉄道で起きた重大な過失による事故という特殊性を考慮したとみられる。
 JR西は十八日に開いた遺族らへの説明会で、「事故は当社に100%の責任がある。事故の重大性から、従来の国内の人身事故の基準以上の補償を考えている」との方針を示していた。
 遺族への補償は、(1)精神的苦痛に対する慰謝料(2)犠牲者が将来得ることができた収入などを算出する逸失利益-が主な柱となり、鉄道事故の場合は通常、交通事故賠償額の算定方式が基準になる。交通事故でも、加害者側に飲酒運転など悪質で重大な過失があれば慰謝料が増額されることがある。
 JR西は今回特に、安全性が当然に要求される公共交通機関で起きた未曾有の事故という特殊性を踏まえ、何の落ち度もないまま命を落とした犠牲者の無念や苦痛を最大限に考慮することにしたとみられる。従来の慰謝料より一律一千万円以上も上乗せするのは前例がないという。
 交通事故の慰謝料額は通常、「一家の大黒柱」を失った場合で二千万-三千万円のケースが多く、これに照らせば三-五割増しになる計算だ。
 ただ、早期の補償交渉を望まない遺族も多く、JR西は遺族感情に配慮し、補償交渉の開始時期などを含め、個々の遺族の実情を見極めながら対処する方針。
(産経新聞) - 6月23日2時41分更新