兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故で、事故の遠因と指摘されているJR西日本の高速・過密ダイヤについて、同社の元ダイヤ編成担当者が四日までに産経新聞社の取材に応じ、「福知山線は速度を出しすぎる路線」と証言した。ダイヤは改正ごとに国土交通省の審査を受けるが、元担当者は「一度も指導を受けたことはなく、形骸(けいがい)化していた」と指摘している。尼崎東署捜査本部は事故の主因とされる速度超過の背景を調べており、国交省の担当者からもJR西に対する監督・指導について事情を聴くことにしている。
 取材に応じた元担当者は、過去にダイヤ編成を行う本社鉄道本部運輸部に所属。実際に福知山線も担当した経験を踏まえ、「福知山線はもともとローカル線だったことを考えれば、スピードを出しすぎの路線だった」と指摘した。
 JR西は平成元年から、関西主要区間を「アーバンネットワーク」と命名、高速化と大量輸送体制の構築を進めた。その一環として、福知山線では三年に直線区間の制限速度を時速百キロから百二十キロに引き上げ、五年には今回の事故で脱線した百二十キロ走行が可能な207系電車を投入、所要時間を短縮した。
 アーバンネットワークのダイヤ編成は路線を管轄する支社が実務を担当し、運輸部が各支社間の調整を行う。元担当者は高速化を進めた時期に同線のダイヤ編成にも携わったという。
 ただ、国鉄時代の約四倍の本数が運行する同線の過密化については、「過密といわれれば確かにそうだが、東京・山手線の約二分間隔と比較すれば大したことではない」と話している。
 編成されたダイヤは鉄道事業法に基づく「届け出制」となっており、改正ごとに国交省に提出、審査を受ける。この審査について元担当者は「制度は形骸化しており、一度も不備を指摘されることはなかった」と証言した。同省近畿運輸局の担当者も「書類に誤りがあれば指摘することになるが、現実にはなかった」と話している。
 国交省の監督・指導をめぐっては、新型ATSの設置を大手私鉄に義務付けながら、JR各社には旧型も認めており、こうした二重基準が福知山線での新型ATS配備の遅れにつながったと指摘されている。
 さらに懲罰的とされるJR西の再教育制度について是正勧告をせず、国家資格である運転士の登用が各鉄道会社の裁量にゆだねられているなどの問題点も浮上している。
(産経新聞) - 6月4日15時43分更新